契約 COVENANT

神がアブラハムに現れてから五百年が経ち、彼の子孫は二百万人ほどに増えていました。彼らはエジプトで虐げられており、先行きは暗いように見えました。

しかし、神は彼らのことを忘れたわけでも、彼らに自分たちの土地を与えるという約束を忘れたわけでもありませんでした。約四百年の沈黙の後、アブラハム、イサク、ヤコブに現れた神は、モーセという男の人生に介入されました。

神の手はモーセの生涯の初めから彼をとらえていました。モーセの母親は、ヘブル人の赤ん坊の虐殺からモーセを救うためにナイル川のほとりの籠の中にモーセを隠し、ファラオの娘がモーセを見つけて宮殿の王子として育てたのです。しかし、その後モーセはエジプトから逃れて砂漠で名前を伏せて生活を始めました。

自燃の炎

その時に神が介入されたのです。モーセは茂みで燃えている炎を見ました。しかしその炎は、茂みを燃やしていませんでした。炎は自燃していたのです。他のすべての炎は、燃料がなくなってしまえば、消えます。ろうそくは、ろうがなくなるまでは燃えますが、なくなれば、火は消えます。しかし、この炎は他とは違っていました。炎は自らの力で燃えていたのです。神も神自身の力によって存在します。神は他の誰か、あるいは何かに依存していません。

モーセが近づいて行くと、神は炎の中からモーセに語られました：「わたしはあなたの父祖の神、アブラハムの神、イサクの神、ヤコブの神である」（出エジプト 3:6）。そして神は、「わたしはある」（3:14）というご自身の名を明らかにされました。

そして、神はモーセに、ご自分の民をエジプトから連れ出すように命じられました（3:10）。モーセは「私の民を去らせ」（5:1）という神の命令をもってファラオに立ち向かいました。しかし、ファラオはその要求を拒否しました。ですが、一連の災いがファラオの王国を荒廃させた後、ファラオはついに神の要求を受け入れました。

神の品性を反映する

その二ヶ月後、神の民はシナイ山で野営していました。彼らは十ヶ月間そこに留まり、神はその時間を使って混乱した群衆を規律ある国民に変えてくださいました。

人々にとっての最優先事項は，自分たちの特別な召命を理解することでした。彼らは神の民であり、アブラハムが神と交わした約束の継承者でした。神は彼らと契約を交わし、その関係性を確認されました：「わたしはあなたがたの間を歩み、あなたがたの神となり、あなたがたはわたしの民となる」（レビ 26:12）。

それから、神は民に十戒を与えられました。これは恣意的な規則集ではありませんし、文化的な結果として一般的に認められた価値体系でもありません。十戒は神の品性を直接反映しているものです。「あなたには、わたし以外に、ほかの神があってはならない」と神が言われたのは、神は唯一のお方であるからです。「姦淫してはならない」と神が言われたのは、神が誠実な方であるからです。そして「あなたの隣人の家を欲してはならない」と神が言われたのは、神が平安を持っておられる方であり、同じであるように民を召されるからです（出エジプト 20:3、14、17）。

律法を守ることで神の民になるわけではありませんが、神の民であるということは、律法に従って生きることで神の品性を反映するようにと、私たちが召されているということです。

危機に陥る

数週間後、神の民は危機に陥りました。モーセが民から離れている間に、彼らは偶像を作り、あらゆる種類の堕落にふけっていました（出エジプト 32:5−6）。彼らの行動は、神の性格を反映するどころか、それを否定するものでした。

神は民にカナンの地を与えるが、彼らが罪を犯した結果、神が民と共にいることはもうないと宣言されました（出エジプト 33:3）。これを聞いた民は悲嘆に暮れました。神の臨在と祝福がなければ、自由と繁栄という贈り物は、ほとんど意味がないことを人々は理解し、神との関係が回復することを切望しました。

神と会う場所

神はモーセに幕屋と呼ばれる移動式の礼拝所を作るための詳細な指示を与えました。このテントのような構造物の中心には至聖所があり、そこに契約の箱が置かれました。その木の箱には蓋があって、蓋にはケルビムというエデンの園の入り口を守っていた御使いの像が飾られました。

この場所で神は、大祭司と呼ばれる神の民の代表者に会うことになっていました（出エジプト 25:22）。大祭司が至聖所に入り、犠牲として献げられた動物の血をケルビムの間に撒くと、神の臨在を表す雲が幕屋を満たしました。

神の臨在がどうすれば民のもとに戻ってくるかを、神は示してくださいました。ケルビムは罪が常に死をもたらすことを思い出させましたが、犠牲として献げられた動物の血は、神が身代わりを受け入れる用意があることを語ってくださっていたのです。

神と共に前進する

神の民はシナイから出発して、カナンに向かいました。神は彼らと共にいてくださり、神がアブラハムに約束した地を彼らに与える準備がようやくできました。しかし、その地にはすでに他の人々が住んでいて、神の民は彼らと戦う勇気を持ち合わせていませんでした。信仰がなければ、神の約束が果たされた喜びを味わうことができません。そのため、民は四十年間砂漠をさまようことになりました。やがて新しい世代が育ち、神に従って前進する準備が整いました。

神の民は、モーセの後継者ヨシュアの指導のもと、約束の地に入りました。この一つの出来事によって、神は二つの目的を達成されました：つまり、契約の約束を果たすことと裁きをもたらすことです。

神はアブラハムに、彼の子孫が約束の地を相続するまでには長い時間がかかると言われていました。それは、「アモリ人の咎が、その時までに満ちることがないからである」（創世記 15:16）と神が言われた通りでした。五百年経って、咎が満ちました。神は彼らの執拗な残虐行為を目にしており、彼らを滅ぼされたのです。

第三の山からの眺め

約束の地に定住すると、ヨシュアは民に神との契約を新たにするように呼び掛けました。五十年足らずの間に、神はご自分の民をエジプトの奴隷状態から救い、カナンの地で繁栄するまでに導かれました。「私たちもまた、主に仕えます」と彼らは言いました（ヨシュア 24:18）。

それは素晴らしい瞬間でした。しかし、神の民がまた別の暗い谷に入っていくのに、そう時間はかかりませんでした。